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■勇者とカップル
ついに僕にも念願の彼女が出来た。
今日は初デート。
昨日はデートコースを考えすぎて寝られなかった。
買い物をして、ディナーをして、夜景を眺めて、その後は・・・ゲフンゲフン。
どこへ行こうか朝まで散々考え、結局街中をぶらぶら散歩する事になった。
午前中は買い物をして、お昼は札幌の中島公園で休む事になった。
中島公園は広大な敷地の中に、コンサートホール、文学館、天文台、
重要文化財の豊平館と八窓庵など様々な施設が立地し、中を鴨々川が流れる公園だ。
中島公園駅を降り、出口を出てすぐにある公園入り口を通る。
長い冬からやっと春を向かえたこの季節。差し込む太陽の光が心地よい。
やがて菖蒲池を抜け、自由広場へと出た。
自由広場へと出たところで、歩き疲れたので、適当に腰を掛けられる場所を探した。
やがて近くに東屋のベンチを見つけ、そこに腰を下ろした。
いよいよ憧れていた時間がやってきた。
一人身では一生叶わない願い。
彼女のお手製弁当だ。
不恰好なおにぎり、少し焦げた玉子焼き、タコウインナー。
お世辞にも料理が上手とは言えないが、
どれも気持ちを込めて作ってくれたのがよくわかる。
「いただきまんもすー」
「ちょっと待って、ねぇ、アーンして」
「アーン」(夢のようだ)
勇者は困っていた。
目標となるベンチにカップルが座っていたからである。
カップルはお弁当を開いたばかりでしばらく動きそうもない。
探しているものは、きっとベンチの下とか見つかり辛い場所にあるだろう。
違和感が無い様に自然に覗き込みたい。
何か落とした振りをすればいいだろうか。
一刻も早く探したいのに!
しかも、カップルがものすごく幸せそうだよな。
きっと彼女の手作り弁当なんだろうな。
ああ…
伝説の……
たこさんウィンナー・アーンだ!!!!!
たこさんウィンナーに見とれながら歩いていたその時。
足元は既に目標のベンチであった。
「アーン」
・・・・・・・・・あれ?
目を開けると、僕の口に入るはずだったタコウインナーは、
放物線を描いて地面に落下している最中だった。
え??
地面には、前のめりに倒れている彼女と、
ベンチにつまづいて転んだらしき見知らぬ人。
そして、ひっくり返ったお弁当箱が落ちていた。
転倒した彼女の上に、僕のタコウィンナーが着地した。
と、その時だった。
ばさばさばさー
鳩の群れがお弁当目掛け寄ってきた。
ばさばさばさー
ばさばさー
ばささー
クルックークルックー
彼女のお弁当に鳩が群がった。
公園にいる全ての鳩が群がる勢いで集まっていた。
数分後・・・
僕の口に入るはずだったお弁当は、あっという間に鳩の胃袋を満たしていった。
彼女は泣いている。
見知らぬ人はただひたすら謝っている。
空の弁当箱と、僅かに残った焦げた玉子焼きの残骸が哀愁さを醸しだしている。
僕らはお互いに無言で公園を立ち去った。
泣きながら歩く彼女に寄り添い、空を見た。
気付いたら日が暮れていた。
見上げた空は飴色に染まっていて、やっぱり少し焦げた玉子焼きのようだった。
■イエ郎の過去
普段とは違う寒気を感じて目覚めると、そこは札幌の中島公園のベンチだった。
あれ?
俺、昨日ちゃんと家のベッドで寝たよな…?
なにこれ???????
くしゅんっ!
寒い。
4月になったばかりの札幌は、冬と言ってもいい寒さだ。
なんか良くわからないけど、とりあえず屋内に行かなければ死ぬ!!!
歩き出そうとした時、さらに違和感を感じた。
タイツの中がごわごわする。
なんだこりゃー!!!!!
タイツの中には、養鶏の飼料が詰まっていた。
叩けば落ちてくるので良かったが。
全身を叩いていると、目の前に奇妙な光景をみつけた。
鳩の塊?
いや違う。地面に落ちているものに鳩が群がって塊のように見えているのか。
横には泣いている女の子と呆然としている男と謝っている人がいる。
ヒッチコックの「鳥」みたいな光景だな。
世の中奇妙なことだらけだな。
そんなことを思いながら、温かい屋内を求めて早足で歩きだした。
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